トレイルランナー・中川政寿|登山道整備「道普請」からはじまる、自然とのつながりを再生する取り組み

和歌山県龍神村をベースに活動をする中川政寿。自分達の遊ぶフィールドは自分達の出来る範囲で持続可能に保つことをコンセプトに活動するトレイルランナーの中川さんは山でトレイルランニングを楽しむランナーにこそ森や自然との繋がりを知って欲しいと話す。
森でふかふかのトレイルがどのように出来るのか、どのように荒れたトレイルを整備するのかを体験しながらより深く森に浸り森との繋がりを知れるようにと開催したイベントに密着した。


トレイルランナーの枠を越えた、中川さんの活動

中川さんが和歌山県の龍神村に移り住んだのは11年前。それまでは大阪、京都を拠点とし、トレイルランナーとして活動していたが、世界遺産・熊野古道を訪れたことを契機に、より自然に囲まれた山奥に移住したいと龍神村に根を下ろした。

その龍神村の文献で出会った「幻の熊野古道奥辺路」が、中川さんの人生を大きく変えることとなる。世界遺産として登録されている中辺路をはじめとする古道以外にも、かつて巡礼の道として存在していた奥辺路の存在を知ったのだ。その奥辺路だが、歩く人は少なくほとんどが森に還り、古道としての面影は失われてしまった。

豊かな自然に囲まれた龍神村で、幻の熊野古道を復活させたい。そんな想いは次第に強くなり、中川さんは奥辺路再生プロジェクトの先頭に立った。

▲〈リックティ スプリット20L バックパック〉は、ファストパッキング的な動きのあるシーンはもちろん、道普請の道具を持ち運ぶときにも愛用している。

「道普請とは、地域の人たちみんなで道を直しましょうという、熊野古道の伝統的な活動です。いまでいうトレイル整備ですね。奥辺路の道普請は5年ほど前から。仲間のランナーや地域コミュニティを巻き込み、定期的に活動しています」

MOUNTAIN HARDWEARは、トレイルランナーとしての活動だけでなく、道普請にまつわる取り組みもサポートしている。アウトドアアクティビティをターゲットに開発されたプロダクトではあるが、中川さん流の視点でさまざまな現場で活用されている。

▲〈コアアロイジャケット〉や〈エアメッシュフーディ〉など、中川さんの活動を支えるアイテムは少なくない。

道普請の作業は多岐にわたる。山を登り稜線を歩き、土を掘り岩を運ぶ。草を刈ったり、倒木を切り倒すこともある。ときには過酷な自然環境で快適かつ安全に活動をつづけるためにも、MOUNTAIN HARDWEARのプロダクトの機能性が活きてくる。


「道普請=トレイル整備」に取り組む理由

中川さんが道普請に関心を寄せたのは、自然災害により荒れた山の姿を目の当たりにしたことがきっかけだった。台風や大雨の影響で木々は倒れ、雨水の流れにより登山道は削れていく。かつて龍神村に移住する前、京都のトレイルランニングコミュニティーで登山道整備に参画していた経験もあり、整備への知見はあった。しかし、整備をつづけているうちに、森や自然のことをもっと知りたいと興味をもつようになった。

「整備はほんとうにきりがないんです。そこで直すだけじゃだめだと気づきました。どうしたらトレイルを持続可能にできるのかを考えたときに、森の木や自然が元気であることが大事だとわかりました。走ることよりも、自然に目が向いていったんですね」

中川さんは、林業関係の人に話を聞き、インタープリター(自然解説員)のコミュニティに入り、自然を知り、伝えていくための活動をはじめた。「トレイルを走って楽しい」から「地域の森を見て楽しい」へと、「山や森の見方が変わった」と話す中川さん。「この山の森は自分の生活とどうつながっているのか」など森にもどんどん興味が広がっていったという。

そしていま、中川さんは、道普請だけでなく森や自然を体験できるプログラムを立ち上げた。森に携わるさまざまなエキスパートを招聘し、仲間のランナーに声をかけ、新たなコミュニティづくりに取り掛かった。

「森には水源や土砂崩れを防ぐ機能など、多面的機能が備わっています。森を知ることは、自分と自然のつながりを取り戻すことでもあります。それを、もっとたくさんのトレイルランナーにも伝えていきたいんです」


トレイルランナーと林業家、山主の共生とは?

2日間にわたって開催されたイベントでは、中川さんが主導する道普請のほかに、仲間のインタープリターを交えた森林体験、さらには林業家や森の所有者である山主も加わった。あくまで登山道整備はイベントの一部分。森や自然のことをさまざまな立場から紐解いていくプログラムが展開された。

キーパーソンのひとりは、和歌山県田辺市で「山主」として代々林業を営んできた千品喜嗣さん。林業としての山はもちろん、その自然を次世代につなげていくための活動に力を入れている。

「シェアフォレスト」と名付けた森では、杉や檜の植林だけでなく、ウバメガシをはじめとする広葉樹の森もある。ウッドデッキやトレイルも整備され、大人はもちろん子どもも楽しめる森林空間が広がっている。千品さんが大切にしていることは「たくさんの人が山に来れるようにすること。」自然との距離が遠い社会の中で今回のようにトレイルランナーを含めたくさんの人が山にきて森が元気になっていくと嬉しいと話してくれた。

そんな林業の森でも、中川さんはトレイルランニングでサポートしていきたいと考えている。

「森づくりで僕らの生活を支えてくれている山主さんとも協力していきたい。道普請やトレイルランのイベントを開催することは、僕らの森に対する恩返しでもあるんです。これもトレイルランニングの新たな多面的機能になりうると思っています」

もともと和歌山は林業が盛んな土地。地域の産業であり地元の生活とのつながりも強く、水源の森という側面もある。中川さんは自然について学ぶなかで、林業という視点で森への知見を高めていった。

「最近、森に対して動いてる人が増えている実感があります。 インタープリターをはじめ、開かれた森づくりをする林業家さんだったり、どんどんそういう人が増えていくと思いますし、僕も広げていきたい」

夜はキャンプファイヤーを囲み、意見交換を行った。林業や森づくりに携わる現場の声が参加者に届く貴重な機会。トレイルランニングをきっかけに、山を走るだけでは得ることのできない視点を知る場となった。



トレイルランナーだからこその視点で道普請を

地元山岳会や山小屋、自治体やハイカーコミュニティが担うことの多い登山道整備。中川さんにとって、トレイルランナーがそこに加わるメリットは明確だ。まず、山を走る距離が長いこと。いろいろなトレイルを走っているから「いいトレイル」が感覚でわかるはずだと話す。

「どういう道のつけ方にするのか、石をどう置くのかなど、ランナーだからこそわかる走る流れみたいなのもあるんですよね。その視点も、道普請には必要なんです。

これまでトレイル整備というと、ハイカーの人たちや山岳会の方が多かったと思います。トレイルランナーももっと積極的に、大会に出るくらいフットワーク軽く、参加していってもらいたい。自分では、その機会をどんどん作っていきたい」。

道普請の目的は登山道整備ではあるが、トレイルランニングだけでは気づかない発見や仲間とのコミュニケーションも生まれる。そんな広がりを中川さんは大切にしている。

「道普請はみんなで協力し合うのがいいんです。石を拾ってくる人と並べる人がそれぞれ班で動いたり、「ここは大きな持ってきてくれ」とか「ここは小さいのやな」と話し合いながらやるDIYみたいな楽しさもあります」

今回のイベントは、一般公募ではなく、中川さんの仲間を中心としたプレ的なものだった。来年から一般のツアーも受け入れていく予定だ。



子どもたちを山に連れていくこと

中川さんのイベントは、子どもと一緒に参加する家族も少なくない。その背景には、インタープリターとしての活動があった。

「インタープリターは、子どもも大人も対象なのですが、やはり子どもへの自然教育には力を入れていきたいですね。子どもたちは本当に純粋で、山を楽しめる。遊びを教えなくても、勝手に考えて遊んでいます。

そんななかで、一緒に道普請をしながら、水の流れを石がどうやって堰き止めるか、みたいな話をすると、しっかり理解して石の並べ方を考えはじめるんです。でも、山に入ったことがないという子どもも多い。田舎の子たちでもなかなか山には行かなくなっています。

だからこそ、自然を経験した子たちが大人になったときに、自然にはこういう仕組みがあって、森は大切なんだということをわかっていてほしい。子どもたちに伝えることはすごく大切だと思ってます」

次世代を見据えて活動をつづける中川さん。トレイルランナーとしての新しいキャリアはまだはじまったばかりだ。

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