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Interview

#03INTERVIEW(3/3) スノーボーダーとして暮らしていくために

「自分の看板で食べていく覚悟ができて、いざ踏み出してみたら、やはりたいへんなこともあるし、
生活するのも楽じゃない。けれども夢はあるな、と今、実感しています」

富山市街に近い滑川市から、山あいの立山山麓に越してきたのは2年前です。ある時、知人に「いつか山に住みたいんだよね」という話をしたんです。すると、「近所に空き屋があるよ」って。ご縁ですよね。「えっ?!」となって、そこから気持ちがどんどん現実的になりました。「借りたいなら、聞いといてあげっちゃ」ってことになり、話を聞いてみたら意外なほどの家賃で借りられると。

「家も見せてあげっちゃ」と言われて見に来てみたら、一発で気に入ってしまったんです。立山黒部アルペンルートの立山駅も近いし、立山山麓スキー場や粟巣野スキー場も目と鼻の先。こんな最高な場所はないでしょう、と嫁さんを説得にかかって一悶着あったんですが(笑)、最終的には彼女も来て良かったと思ってくれています。やはり、地域の人たち皆さんが面倒見よくて、チビのこともいつも遠くから見ていてくださるんですよね。

長男は5歳で名前は「嶽(ガク)」といいます。剱岳に憧れがあったので、剱岳を表現する名前にしたかったんですけど、ストレートに「剱」君だとあまりに強すぎる。何か良い名前はないかと思って、山岳のガク。旧式漢字の「嶽」、富嶽の嶽の字です。意味を調べてみたら、山の麓に人も獣も生活していて、そして真ん中に言葉が入っていました。次男は同じ山でも、今度は綺麗な神々しさがいいなと思って、銀嶺立山の「嶺」の字。嶺と書いてリョウとしました。

嶽がまだ小さい時から山に連れ出しています。一緒にキノコ採りにも付いてくるし、山道も嫌がらずにガンガン登ってくる。ワイルドに育ってくれてホントに良かった(笑)。もしも将来プロのスノーボーダーになりたいと言い出したら、その時は「がんばれ」って言います。たいへんだけど、夢はあるよと。

務めていたショップを辞めたのは昨年6月です。36歳にして、スノーボードと山だけで暮らしていこうと腹を決めました。ようやく自分の看板で食べていく覚悟ができて、いざ踏み出してみたら、やはりたいへんなこともあるし、生活するのも楽じゃない。けれども夢はあるなと、今、実感していますから。

結婚して、スノーボードで暮らしていこうと思った当時は、あまりにも現実がたいへんでした。子どもが生まれて、それでも家にお金がなくてギスギスした日々も味わった。お金がないって、こんなにも辛いものなのか、という時期がすごく長かった。けれどもあきらめずに、スノーボードで暮らせるようになるにはどうしたらいいかを考え続けました。

それは矢沢永吉さんのおかげでもあります(笑)。彼の本『成り上がり』にこう書いてあるんです。「食えるって大事だよね、でも何で食うか。それを意識しないで生きている人が多い。だけど矢沢は好きな音楽で飯を食えてハッピー」みたいな……。それを自分に当てはめると、僕にはスノーボードだった。そういうことなのかなって。

人生の指針にできる人って、そんなに多く居ないと思うんです。僕はブライアン・イグチに憧れてスノーボードのプロになろうと思ったので、まずはイグチを指針にしてみたり、あとはジェリー・ロペスさんを指針にしたこともありました。こういう状況だったら、彼らはどう考えるのかなと。でもその中で、一番しっくりきたのが、E.YAZAWAだったというわけです(笑)。

あきらめることは簡単です。でも、あきらめる方向で考えるのに時間を使うのなら、あきらめないために自分をもう一度見つめ直したい。それを自分に課してきたつもりです。滑り続けながら、家族との暮らしを成り立たせる。そのためのアプローチはいろいろあると思います。そのなかで、立山で育った僕がたどり着いたのがガイドだったのです。

立山は景色や壮大さ、空の高さや空間の広さが他とは違っていて、非現実的な景色に出合えるのが一番の魅力だと思います。それを標高2400mまでバスで来られて、眺望の良い日は海まで全部見える。場合によっては、人の人生を変えてしまうほどの力があると思うんですよね。

よく「立山・剱には一生かかっても滑り切れない斜面がある」と人に言ってます。本気で取り組んだとしても何年かかるのかな。それほど広くて、懐の大きな山。そこにルーツを持てたのは幸運ですし、そんな山をローカルにできることは、滑り手として本当に幸せなことだと感じています。

Photo by Joe Kobashi
Text by Chikara Terakura
Special thanks to
立山黒部アルペンルート、雷鳥荘

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PROFILE

水間大輔

水間大輔

みずまだいすけ◎1978年、富山市生まれ。ハーフパイプ競技でのスノーボードプロ活動を経て、富山県立山山麓をベースにバックカントリーフィールドで活動中。奥深い剱岳や、立山での長期間に及ぶテント泊で活動を続けた成果を発信しつつ、立山でのスノーボードガイドとして生きていく道を選んだ。3シーズンのテールガイド経験を経た現在、日本山岳ガイド協会認定スキーガイドステージII資格の取得を目指している。

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